イケダハヤト氏ブログ「まだ東京で消耗しているの?」より
「地球を守るために、虫を食べる」:昆虫食の普及に取り組む「地球少年」篠原祐太氏が熱すぎる」
2014年6月2日収録、6月12日付で公開された該当記事における篠原祐太氏の発言には、伝聞情報に対し出典が示されず、不正確な情報が含まれております。また、記事中に5月10日の講演にて発表した当研究会の報告内容が、篠原氏の主張と混同されて紹介されており、誤解を招いています。既に、この記事を引用したと思われる記事も確認されたことから、社会的影響は少なくないと判断しました。
「虫食い」が飢餓を減らす 「食用ゴキブリ」がダメなら飼料に
http://the-liberty.com/article.php?item_id=8004
当研究会は、該当記事を作成・公開することで、当研究会と昆虫食研究について不正確な情報を拡散したイケダハヤト氏、篠原祐太氏に対し抗議します。
篠原氏は当研究会の会員ではなく、篠原氏が当研究会の活動に影響を与えたこともありません。また、篠原氏の「昆虫食普及活動における生食パフォーマンス」に対し、当研究会では何度も異論を述べ抗議しましたが、篠原氏は未だに継続しています。すでに篠原氏に対する教育・警告の段階は過ぎたと判断したため、これからの言動にかかわらず、当会は篠原氏に対して今後一切の協力をいたしません。
該当インタビュー記事に対し、以下の3点を指摘し、誤った情報が訂正されることを期待します。
1,「養殖昆虫の生食パフォーマンス」は、本来の昆虫食文化よりはるかに不衛生であり、昆虫食文化の保全と普及に対し逆効果であること。
2,当研究会の報告内容に類似したものが複数、出典を示さずに記事中に紹介されており、篠原氏の主張と混同されていること。
3,記事中に不正確な情報が含まれていること。
以下、上記3点について詳細な説明です。
1,「養殖昆虫の生食パフォーマンス」は、本来の昆虫食文化よりはるかに不衛生であるため、昆虫食文化の保全と普及に対し逆効果であること。
食用昆虫科学研究会は、どの昆虫に対しても、食用の際は必ず加熱を徹底しています。ペットショップで購入した昆虫の生食は特に食中毒リスクが高いため大変危険です。
食中毒サルモネラ菌の両生類・爬虫類の保菌率は、特にペットショップで高く、80%以上の確率で蔓延しています。したがって、そこで購入された生き餌用の養殖昆虫、特に雑食性のコオロギやゴキブリは、文化的な昆虫食に比べはるかに高い食中毒リスクをもつと考えられます。
(参照:『蟲ソムリエへの道』
http://mushikurotowa.cooklog.net/Entry/260/)
また、そのような極度のリスクをもつ昆虫食文化は現存しません。
篠原氏は昆虫食の伝道師を名乗っており、該当記事にて「ゴキブリを生で食べて死んでも、それは本望 」と語っています。
それを日本食に例えるならば、
“日本食文化の伝道師”と名乗る人物が、熱帯地域の川魚を刺身で食べるパフォーマンスを披露し、「日本食の普及のためには、食中毒になっても本望」とアピールするようなものです。
個人で奇食を楽しむことや、自己責任の範囲で不衛生な食べ方をすることについては言及いたしません。しかし、昆虫食の普及や昆虫食文化の保全を掲げるその場で本来の食文化ではありえない衛生管理の不徹底をアピールすることは、昆虫食文化に対する不衛生なイメージを創作し、流布するものです。
したがって、篠原氏の行動は昆虫食文化の保全と普及に対して重大な悪影響をおよぼす危険性が高いものであり、当研究会は今後篠原氏に対し一切の協力をいたしません。
2,当研究会の報告内容に類似したものが複数、出典を示さずに記事中に紹介されており、篠原氏の主張と混同されていること。
当研究会は5月10日「研究現場の知財分科会」にて講演を行い、篠原氏も聴講者として実況に参加しました。
http://togetter.com/li/613281?page=1
その時のスライドはこちらです。
篠原氏の主張①
「既存の昆虫食文化を持続可能な形で保全すべき」について
篠原:今後、既存の昆虫食文化を持続可能なかたちで保全していく活動にも注力していきたいですね。昆虫食を広めようとして、伝統的な文化を壊してしまっては本末転倒ですし。
このインタビュー記事からはこの主張が篠原氏独自のものであるように読み取れますが、当研究会が5月10日に発表した講演スライドに類似した文言があります。
篠原氏はこの講演を聴講し、講演中に以下のTweetを行っています。
この講演はインタビュー掲載(6月12日)以前のものであり、したがって、当研究会の報告内容は篠原氏の影響を受けたものではありません。
篠原氏の主張②
「バッタの大量養殖技術の確立とシステム化により食糧問題と環境問題に対応すべし」について
篠原:簡単そうな感じはしますが、難しい部分もあるんだと思いますね。バッタ類は栄養価が高いので、大量養殖技術を確立し、途上国とかにそのノウハウを輸出して現地でシステム化すれば、食糧難も環境問題も雇用の問題も解決することができそうです。探求の余地がありそうで、個人的に今後注力していきたい領域です。
これは当研究会メンバー・佐伯の学位研究テーマです。5月10日の講演では、養殖バッタの実物を示し、概要を口頭で述べ、篠原氏もバッタの写真を撮って紹介しました。
佐伯は2012年に、博士論文テーマ「昆虫バイオマスの農業利用へむけたトノサマバッタの生理生態学的解析」を大学に提出しており、これに関しても篠原氏の影響を一切受けておりません。
篠原氏の主張③
「アカデミックなところから入った方が文化レベルでの転換ができる」について
イケダ:なるほどー、起業とかも考えているんですか?
篠原:そういう方向性にいくと話題にもなりますし、そこそこイメージ通りにはなりますが、一過性のものになりやすいってのが懸念点ですね。アカデミックなところから入った方が、文化レベルでの転換ができるんじゃないかと。
当研究会は、2013年11月9日、サイエンスアゴラにおける講演「国連が薦める昆虫食~昆虫を食べる時代がついにやってきた~」から「科学的検証に基づく昆虫食文化の創造」を主張しつづけています。
また、当研究会は2011年より、昆虫食の趣味の団体「昆虫料理研究会」(創設2005年)をアカデミックな立場からバックアップしており、両団体の協力によって未来の昆虫食文化の創造に向けて活動しております。
3,記事中に不正確な情報が含まれていること
以下、2点を補足します。
①昆虫食の研究機関・先行事例・先行研究の有無について補足
イケダ:研究機関みたいなものはあるんですか?昆虫食の。
篠原:少ないです。僕が通っている慶応にはないですね。国内外問わず、「昆虫食」に焦点を当てて総合的に研究をしている研究機関は本当に少なくて。ただ、昆虫に関する研究、食文化に関する研究はあるので、そういった場で昆虫食をテーマに研究するか、もしくは最初から組織に属さず自分でやっていくのか、選択肢は色々ありますね。先行事例もないですから、どうやっていくのかも含めて、難しいといえば難しいです。
昆虫食の研究機関は日本の立教大、オランダのワーヘニンゲン大、タイのコンケン大にありますし、当研究会もそうです。
(参照:http://mushikurotowa.cooklog.net/Entry/252/)
先行事例も多くあります。三橋淳著『世界昆虫食大全』(八坂書房)には850もの文献が引用されていますし、昆虫食ビジネスも古くから存在します。
それら先行研究を元に、ワーヘニンゲン大の研究グループが研究を追加し、まとめたものが2013年FAO報告書です。昆虫食研究は長く続けられており、現在も進行中の研究分野です。
②昆虫食研究分野の説明について補足
イケダ:昆虫食、関心は高まっていますよね。国連が報告書を出してから特に。
篠原:はい。だいぶ研究は盛んになってきました。今のところ、文化人類学から昆虫食に入っている人が多い印象ですね。ただ、最初から昆虫食を環境問題や食料問題に結びつけて研究している人はまだまだ少ないので、そのポジションを狙っていく感じなのかなぁ、と思っています。
FAO報告書の主著者が「最初から昆虫食を環境問題や食料問題に結びつけて研究している」グループです。
彼らは、食料安全保障にむけた持続可能な食糧生産を目指した研究所・大学混合の巨大グループのひとつです。2012年、二酸化炭素などの温室効果ガス排出量が既存家畜に比べ低い、ということを主張する論文を出しました。
An Exploration on Greenhouse Gas and Ammonia Production by Insect Species Suitable for Animal or Human Consumption
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0014445
【情報の正確性と出典の明記について】
記者のイケダハヤト様、インタビュイーの発言した情報について、
正確性を求めるならば、記事化の際に出典の追加取材をお勧めします。
篠原氏も以下のようにTweetしておりますので、
自称「昆虫食が趣味のただ者」に、昆虫食の正確な情報や、正しい引用や出典のルールを求めることは困難でしょう。
発信する際は専門家のように振る舞い、批判が来ると素人として振る舞う玉虫色の行動は、責任感がありません。そのため、当研究会では昆虫食研究の末端に関わるものとして、多くの専門分野にまたがる記事については、メンバー間での校正を行い、出典を示すことができる範囲での責任のとれる情報発信を心がけております。
情報の出典を示さないことは、情報の是非を閲覧者が判断する機会を奪うことです。特に科学技術をかたる情報は、信頼されやすいので、誤情報であっても訂正は困難です。
この記事をご覧の皆様も出典のない情報を鵜呑みにされないよう、そして、不用意に誤った情報を発信・拡散してしまわないよう、お気をつけ下さい。
以上が記事に対する当研究会の見解です。
通常、訂正記事が元記事を超える反響になることはありませんので、大変に悔しい思いをしております。
インタビュー記事発表から9日の遅れとなりますが、できるだけ当記事を拡散していただけますよう、ご協力をお願いいたします。
2014.6.21 食用昆虫科学研究会